犬や猫の乳腺腫瘍について│飼い主様と相談の上避妊手術による予防を推奨

2023年06月05日 | 腫瘍科

犬猫の乳腺腫瘍は、腫瘍全体の42〜52%を占めるほど発生率の高い腫瘍です。
初期症状は、乳腺付近のしこりで気づくことが多く、進行すると肺やリンパ節に転移します。
本記事では、犬猫の乳腺腫瘍について原因や症状、治療方法について解説します。

原因


犬や猫の乳腺腫瘍の原因は、性ホルモンが関与していると考えられており、多くはメスで発生しますが、まれにオスでも発生します。

乳腺腫瘍は早期に避妊手術を実施することにより、発生率を大幅に抑えられます。

具体的には、犬では初回発情前に行うと0.5%、2回目の発情前で8%、3回目以降で26%まで発生率を下げられることがわかっています。また猫では、生後6か月以前に行うと9%、7~12か月で14%、13~24か月で89%まで発生率を下げられることがわかっています。

当院では初回発情前、概ね生後半年での実施を推奨しています。

避妊手術で予防できる疾患としては、子宮蓄膿症についても解説していますので、
そちらもぜひご覧ください。

犬と猫の子宮蓄膿症についての解説はこちら

悪性度


乳腺腫瘤の悪性度は、犬と猫で差があります。
犬の場合は、良性と悪性がおよそ50%と言われていますが、猫の場合には、悪性の割合が90%を占めます。

猫の場合は、ほとんどが悪性腫瘍のため、特に早期の診断・治療が必須です。

症状


犬と猫の乳腺腫瘍の症状は、初期段階では、無症状のことが多く乳腺付近の腫瘤が触知できるだけの場合がほとんどです。

しかし、進行すると、リンパ節や体中の臓器に転移しさまざまな症状を引き起こします。
また、症状がなくても他の臓器やリンパ節に転移していたり、しこりが1ヶ所だけでなく、複数の乳腺に発生したりすることもあります。

しこりが大きくなると、表面が自壊することで、出血や痛みによる元気消失、食欲減退などの症状が現れることもあります。

以下は当院で撮影した乳腺腫瘍の写真です。

また、腫瘍が転移すると転移先の臓器で症状が現れます。
(例えば肺に転移した場合、胸水貯留などによる呼吸器症状が認められます)

診断


犬と猫の乳腺腫瘍の診断では、触診、血液検査、レントゲンに加え、切除生検による確定診断が必要です。

細胞診による診断では、腫瘍と炎症の判断が難しく誤診につながる可能性があります。
脂肪腫や肥満細胞種などの他の皮膚腫瘍との鑑別は可能ですが、確定診断には切除した乳腺組織の病理学的検査が必要です。

治療法


犬と猫の乳腺腫瘍の治療法は、転移の有無や乳腺腫瘍の大きさにもよりますが、外科手術で腫瘤を摘出することが一般的です。
手術後は、再発や転移の有無を考えて化学療法を行うかどうか飼い主様と相談する必要があるでしょう。

外科的手術と化学療法についてそれぞれ解説します。

外科手術

外科手術では、腫瘤の局所切除か片側もしくは両側の乳房の摘出を行う必要があります。
猫の場合には、ほとんどの乳腺腫瘍が悪性であるため、片側、両側の乳房切除が推奨されます。
手術においては、少なくとも2cm以上のマージンを取るべきであり、リンパ節への転移が疑われる症例の場合には、リンパ節も摘出する必要があるでしょう。
また、子宮卵巣摘出により、生殖器疾患を防ぎつつ、乳腺腫瘍の再発期間を延長できます。
そのため、乳腺腫瘍摘出と同時に子宮卵巣摘出術を行う必要もあるでしょう。

化学療法

手術後には、乳腺腫瘍の悪性度や症例の状態を考えて抗がん剤などの化学療法を行うか決定します。
転移しやすい腫瘍であるため、悪性度が高い場合には、抗がん剤治療で転移や再発を防ぐ必要があるでしょう。
しかし、化学療法はペットのQOL低下につながる可能性もあります。
犬猫の状態を踏まえ、飼い主様とも十分にインフォームした上で慎重に治療方針を決めましょう。

まとめ


本記事では、犬の乳腺腫瘍の症状や原因、治療方法について解説してきました。
乳腺腫瘍は、発生率の高い腫瘍であり転移するケースも多く見られます。
抗がん剤や手術を行うかどうか犬猫の状態を見極め、治療方針を決めるようにしましょう。

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参考文献
獣医内科学p585
Small animal surgery 上 p823