犬の環椎軸椎亜脱臼(かんついじくついあだっきゅう)とは、7個ある首の椎骨のうち、1番頭側の環椎と2番目の軸椎の間にある関節が不安定な状態になり、椎骨の中を通っている神経に障害を起こす病気です。この病気は小型犬によくみられ、首の痛みなどの症状がみられたら、獣医さんに相談することが大切です。
今回は、犬の環椎軸椎亜脱臼の原因や症状、診断、治療方法などを詳しくお伝えします。
原因
環椎軸椎亜脱臼は、生まれつき(先天性)首の骨や靭帯の形成異常などが原因で発生する場合と、外傷によって引き起こされる場合があります。先天性の場合は特に小型犬種に多くみられますが、外傷性のものは椎骨の骨折などにより突然発症することが特徴です。
この病気を引き起こすと首の神経に障害が生じ、重症になると歩行や呼吸が困難に陥ります。また、最悪の場合、命を落としてしまうこともあるため注意が必要です。
症状
<初期症状>
痛みにより、首を動かさなくなることが多く、物をみるときに目だけで追う(上目遣いで飼い主様をみる)ことがあります。また、頭に触れたり抱っこしたりすると、痛みから嫌がることもあります。
先天性の場合、初期症状は1歳未満で現れることが多いです。また、首への衝撃が原因で突然発症することもあります。
<進行性の症状>
初期症状の後に、後肢(四肢)のふらつきや麻痺、起立困難がみられ、症状が進行することがあります。
<重度の場合の影響>
重症化すると、立ち上がることが困難になるだけでなく、呼吸や排尿がうまくできなくなり、命に関わる深刻な状態に陥ることがあります。
先天性の場合でも、首への軽い衝撃などから突然、重症化する場合もあります。
診断方法
まず、神経の障害の程度を神経学的検査で確認します。その後、必要に応じて、レントゲン検査やCT検査、骨の中を通る神経の状態をMRI検査で確認する場合があります。
治療方法
<保存的治療>
軽症の場合は、安静に過ごすことやコルセットやギプスを装着することで症状が改善することがあります。しかし、骨の状態自体が変わるわけではないため、完治することはありません。症状が再び悪化する可能性があるため、長期的な管理は難しいことがあります。また、必要に応じて、痛み止めやステロイドの内服を併用することもあります。
<外科的治療>
通常は外科的治療が推奨されます。これは、環椎と軸椎を手術で固定する方法で、神経への圧迫を軽減し、将来的にも環椎と軸椎がしっかりと固定されるため、再発のリスクが少なくなります。
手術後は骨が癒合するまで、約2カ月間は自宅での安静が必要です。特に子犬の場合は、成長を待って骨が硬くなってから手術を行うこともあります。
<リハビリテーション>
リハビリは手術後に実施され、手術前の神経症状の程度によって内容が異なります。全く立てない状態からリハビリをはじめる場合は、四肢の起立訓練や歩行訓練などを行います。麻痺の程度に左右差があり、筋力が低下している側には、体重をかける訓練を取り入れることもあります。また、椎体が固定されているため、激しい運動や無理をさせることは避けましょう。
予後と管理
重症の場合、予後は神経障害の程度によって左右されます。症状が現れてから早期に手術を行うことで、回復の可能性が高まります。しかし、手術が遅れる場合や神経障害が重度である場合は、命を落とすリスクもあります。
症状が軽い場合や手術が難しいケースでは、保存療法による長期的な管理が行われます。また、首へのわずかな衝撃も避けるように心がけましょう。
以下のような行動が悪化要因となるため、注意が必要です。
・散歩の際に首輪を引っ張る(胴輪に変更することで首への負荷が軽くなります。それでも急な動きは避けましょう)
・ソファなどの段差からジャンプで降りさせる
・急に抱っこする
・激しい運動をさせる
・他の犬と遊ばせる
手術後に関節が安定した場合でも、再発を防ぐためには首への衝撃を避けることが重要です。人間にとってはさほど強く感じない衝撃でも、小型犬にとっては大きな負担になることがあるため、十分に注意しましょう。
まとめ
犬の環椎軸椎亜脱臼は、重症化すると命に関わる危険な病気です。そのため、手術を勧められた際は、早期に治療を実施することが望ましいです。また、保存療法を選択した場合や手術後は、首への衝撃には十分に注意する必要があります。
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